活版印刷*名刺

先日、名刺を作りました。はじめての活版印刷で。

『あちらべ』の赤羽くんと宇田くんの二人に、もやもやとした思いを伝え、丁寧にヒアリングをしてもらうところからプロジェクトはスタート。
いつもはクライアントとの対話の中から本質を見出そうとするのが自分の役目ですが、今回は珍しく逆の立場。
そんな不慣れな体験は、正直じれったくもあり、でも、色々と質問をしてもらって改めて言葉にしていくことで、自分の中で沢山の気づきが生まれてくる…とても大切な時間となりました。

その日の打ち合わせで、盛り込む要素や紙の選定をどうにか終えて、すぐにレイアウト・デザインに落としてもらったのですが、これまた丁寧な仕事に感激。
友人と仕事をするといつも思うのは、気のおけない仲間と創発し合える喜びもそうだけど、なんだかそれ以上に、襟を正すような気持ちになる…というか、他愛も無いやりとりをしている時とは違うその人の一面を垣間見ることが出来て、そこから得られる刺激や学びは本当にかけがえのないものだな、ということ。それが何よりの楽しみかもしれない。

そうこうして、数日後にはデザインも無事にFix。
普通の印刷物なら、そのまま入稿してまもなく完成…となるものですが、今回は、ここからがある意味で本番。

というのも、自分の今の状態を名刺という形でパッケージングしておきたいが故に、あえて「活版印刷」という方法を選んだから。
活字を拾って組み上げる、一枚ずつ紙に刷る、…そんな行為も自分でしてみたくて。

そうやって名刺が出来上がるまでの一連のプロセスは、まるで社会科見学のようで、本当にワクワクしっぱなしでした。

漢和辞典の並びで無数の活字が文字通り“整理整頓”されてしまわれている。
「字を拾う」という、生まれて初めての行為に終始興奮。
(でも、なかなか探している文字が見つからない。。)

 

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した写真

 

「大」

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「月」

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「均」

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英数字は数が少ないから一つにまとまる。

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した写真

 

今回お邪魔した活版印刷屋さんは、まだまだ活字鋳造機も現役で活躍していて、昔ながらの雰囲気も残るなんとも大好物な空間でした。
それぞれの機械の使い方や工程について職人さんに丁寧に説明をしていただくチャンスにも恵まれ、活版印刷のことを知れば知るほどに、手をかけて作られた印刷物の一つひとつが愛らしく思えてきます。

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した写真

 

様々な要因(印刷技術の発達・低価格化、職人・担い手の不足、紙からWebへの代替えなど)によって、活版印刷はかねてより存続の危機に直面する一つとなっていますが、一方で若い世代のデザイナーを中心に根強いファンが今も増え続けています。
その理由を自分なりに考えてみると、活版印刷には“便利さや効率を優先することで抜け落ちてしまった大切な何か”が、あるいは、“手触りとか体温と表現出来そうな身体感覚を伴う魅力”があるように思えます。

コンマ何ミリ、という精度で量産される鉛活字。
これは「並」という文字。

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した写真

 

活字鋳造機が動く様子 <movie>

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した動画

 

「ジブリ的」とでも形容したくなる、まるで生き物かのような機械たち。

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量産される鉛活字のもとになる「母型」。
昔は高価だったため、ご近所の活版印刷屋さん同士で連携して、みんなでバラバラの書体やサイズをちょっとずつ買い揃えて融通し合っていたそう。なんだか良い話。

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した写真

 

ユニークな母型がいっぱい。

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名刺サイズで、拾った文字が一文字ずつ収められていく。

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お世話になった赤羽くんと塚田さん。

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職人さんの作業。人の手。

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完成した活字組版をチェックして、微調整。

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そして、場所を目黒の『こちらべ』に移して、今度は「テキン(手フート)」と呼ばれる手動式の平圧印刷機を使って、いよいよ印刷。

チェース(金属の枠)に活字組版をセットして、ジャッキでしっかりと締める。

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インテル(と木インテル)で文字の高さを調整。
刷り上がりの印象に大きく影響するので、地味だけどとても重要な作業。

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インク。

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均一に、満遍なく。

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チェースがセットされた様子。ドキドキ。

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紙をセットする位置も何度も調整。

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した写真

 

もはや、本人達以外にはどうでもいい「誤差」のレベル。笑

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面白かったのは、左も右も同じ幅に合わせる…といったミリ単位の調整よりも、最終的には「見た時の印象」を重視したこと。つい、精緻にしようとするとデジタルになりがちだったけど、この作業でも最後は身体感覚が決め手に。

位置だけじゃなく、圧力(=文字の濃さ)の加減も調整。結構な試し刷りを経て、ようやく納得のいくものに。

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こんな感じで刷っていきます。未来の出逢いに思いを馳せて、1枚ずつ心を込めて。

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印刷の様子 <movie>

Hitoshi Ohtsukiさん(@otkhts)が投稿した動画

 

2時間ほどで、用意した約250枚の名刺への印刷が完了。
PCでの作業と違って「今どれくらい出来た」「(このペースなら)あとどれくらいで出来そう」というのが手に取って分かるのも、実際に空間と身体を使って行う作業ならではだな、と感じた。

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愛され、使い込まれた道具は美しい。

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最後のお手入れ。

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その日のうちに、最低限のWebも作って、ようやく閉店。お疲れ様でした。

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こうしてようやく出来上がった名刺。
見た目はいたってシンプル、でもしっかりとした質感。
今の自分が大切にしたい世界観が、プロセスも含めてうまく形に出来たような気がしています。

長く使っている木の名刺入れにも相性が良く、とってもお気に入りの自分だけの一品に。

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今回、名刺作りに協力してくれた「あちらべ」の赤羽くん、宇田くん、そして塚田さんを始めとする職人さん達に、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

活版印刷はデザイン上の制約も多く、(見方によっては)とても手間のかかる手段かもしれませんが、特に名刺のようなコミュニケーションツールには最適だと改めて思いました。激しくお薦めです。

そして、いつも心の通ったプロジェクトを手掛けているあちらべにも注目です!

あちらべ

もし活版印刷やあちらべにご興味をお持ちの方がいらっしゃればぜひお気軽にお声掛けください。喜んでご紹介させていただきます:)

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